老兵に遺せるもの

話はいきなり年末に戻る。
 
年が変わった瞬間に、我が家のテレビに映っていたのは、果たしてクリスマス特番だった。大晦日の昼間に録画していた『クリスマスの約束2009』を観てぶっとび、それを奥さんにも観せていたのだ。
 
話がわからない人のために補足すると、この番組は2001年末から毎年放映されている小田和正の特番。昨今流行っているトリビュートアルバムのはしりのような特番だ。どんな番組かということを説明するのは結構面倒なので、リンクされたキーワードを参照されたし。
 
さて、今年(あー去年か)の『クリスマスの約束』は、ボーカルが集まって、それぞれの曲をみんなで歌い倒すというコンセプトだった。もうすぐ10年目になるこの番組史上でも、こんな大それた企画は初回以来である。まあ、当たり前だが簡単なことではない。
 
当然のように企画は難航した。多少、プロジェクトX的な脚色があったにせよ、たぶん本当に難航したのだろう。
 
面白かったのは、その製作過程を綴ったドキュメンタリービデオだった。小田和正に、スターダスト☆レビュー根本要スキマスイッチ大橋卓弥いきものがかり吉岡聖恵(メインはむしろ水野良樹?)を加えた「小委員会*1」により企画の骨子が作られていったのだが、まあぶつかるぶつかる。
「全員でユニゾンで歌いたい」という小田和正の原案に対し、最初のデモテープを聞いた大橋は「ソロで歌っている時の方がかっこいい。みんなで責任を取る以上、かっこ悪いことはしたくない」と反論する。そもそも小田和正に真っ向から反論するという心意気がかっこいいが、小田和正も、まあああいう性格の人だから簡単には譲らない。
そのあたりを根本要がうまく取り持ち、恐らく当初想定した何倍もの苦労を重ねた結果、出来上がった「22'30"」という楽曲には、簡単に「すごい」とか「感動した」とか言わせない迫力があった。という表現自体もチープだけど。
 
 
ずばり思うのだ。
ここ数年小田和正がやっているのは、自分が儲けるための仕事じゃあなくて、自分を育んでくれた日本の音楽業界に対する最後の恩返しなのではないかと。
この人は一回りも二回りもちがう青二才に対して、平気で「俺たち」という言葉を使う。明らかに格上の、神様みたいな人の仲間に迎え入れられた青二才たちは、そりゃあ頑張るだろう。
そうやって、日本の音楽業界がいつしか喪ってしまった「横の繋がり」を取り戻すことが、小田和正の最終目標なんじゃないかって思うのだ。
 
もちろん、本来的にはシャイな小田和正は、そんなことおくびにも出さないけれども。
 
 
ここで論旨が我田引水になるが*2、この分断現象は、現代社会の至る所で行っている。
 
あなたは、各地のリタイヤ世代が行っている草の根のボランティア活動を知っているだろうか。親父もその中の一人なのだが、会社人時代にあれ程忙しかった親父が、その頃よりも忙しい毎日を暮らしている。無論、ただ働きだ。
 
喪われた絆を取り戻すための、「老兵」たちの働きには、ただただ頭が下がる。
 
 
さて、ここからは抱負のようなもの。
 
まず正直に告白すると、自分は親父たち以降の世代に、親父たちが努力しているような「社会をより良くするための苦労」みたいなものを期待していない。これはそれなりに人生を歩んできて、そこで出会った人々を眺めての結論めいたものだ。たまたま、自分が出会ってきた人々がそうだったのかもしれないが、社会を良くしていこうというような願いや思いが、これ以降の世代からはどうしても伝わってこない。あるのは、自分に対する憐憫だけのように思えてならない。

 
先輩という枠を通り越し、自分の親の世代が必死に繋ぎ止めようとしているバトンを受け取るものがいないのであれば、それは子である自分たちの世代が受け取らなくてはならないのではないか。それが、ここ数年来、自分が考えていることである。
 
そのバトンを受け取るための、具体的なアクションを起こすこと。
それが、今年の大きな目標だったりする。
 
今年末までに、親父世代に「俺たち」と言わせてみたいものだ。
 
このちっぽけな戦国武将に力を。

*1:ちなみに、このメンバーは『クリスマスの約束2007』のゲストでもある。この頃から企画を構想していたのだろう。

*2:まあ勿論「我田引水でない論旨がどこにあるのだ」という言い方もできる。